土曜日。20年近く連絡を取っていない親戚から届いた荷物の不在通知が郵便受けに入っていました。ナマモノ、ということでハムか何かかな?と思いつつ、自転車に乗って郵便局へ。財布の中身を平日用から休日用の財布に入れ替え、13:40くらいに出発。いつもよりも多めの59,000円というちょっとした大金が入っていたけれど、特に置いていく理由もなかったので全部入れ替えることに。この時の自分の選択を、あとから死ぬほど後悔することになる。
ほぼ毎日自転車で通っている柏駅周辺。「たまには違う道から行ってみるか」と途中で思い立ち、いつものルートから逸れて違う道を行くことに。急な坂道などに四苦八苦しつつ、14時過ぎには郵便局に到着。荷物は、ハムという予測が見事に外れ、でかいダンボールに入った大量のみかんでした。
「大きいですけどどうしますか?」と聞かれて一瞬迷ったものの、「自転車のカゴに入るか試してみます」と返答。「それでは、身分証明書の提示をお願いします」というお決まりの流れで、お決まりの場所のケツポケットにあるはずの財布を取ろうとすると…
ない
財布がない
ザックに入れたかな?と背負っていたザックの中をくまなく探すも、どうも見当たらない。「ちょっと、向こうに財布を置いてきたっぽいので…」と受付を立ち去る自分に向けられる訝しげな視線を背後に感じつつ、とりあえず自転車に向かうことに。
やはり、ない
どこにもない
どこだ、どこに落とした!?と、来たルートを頭の中で戻ってみる。おおよその予測としては、いつもは通らない急な坂道、あの坂道ではかなり体勢が斜めになったので、あそこで落ちたのではないか。そういえば、その坂道に入る直前まで自分の前を自転車で走っていた白いコートを着た長髪の女性が坂道直前で自転車を降り、その女性を抜いて俺は降りずに登り切った…(もしそこで落としていたら、気付いていないかな?)と淡い期待をその女性に抱きつつ、こういう時に限って大金を持ち歩いていた自分を本気で呪う。
「絶対に見つける!」そんな気分で、目線を地面付近に向けて財布らしい影をサーチしつつ、とりあえず来た道を戻ることに。予測していた坂道にも…ない。やはり、あの人通りでは誰かに拾われているのか…拾われているのならお願いだから警察に届けていてほしい。そう祈りながら、帰宅。もしかして、そもそも財布を家に忘れていったのではないか?そういえば、カードを入れ忘れて一度ケツポケットから出したではないか… という都合のいい記憶も、部屋の財布の所定位置に至った時点で所詮都合のいい記憶でしかないのだと思い知らされる。
やはり、ない
もうこうなったら、警察に頼るしかない。柏警察署の番号を調べ電話し事情を説明してみたものの、そのような財布の届け出は現時点ではない、とのこと。電話を切った後、もう一回だけ郵便局までの道を辿ろう、と、再び財布を探しながら郵便局まで戻ってみたものの、どこを探してもやはりない。
万策尽きたか… とりあえず、クレジットカード一体型で更にオートチャージのSuica機能付きのキャッシュカードは放っておくととんでもない事になるので、キャンセルしなくては… と失意の中自分を奮い立たせ、カード会社に連絡。その流れでキャッシュカードも停止。現金を引き出す術がない中、手元に残ったのは1,000円程度の小銭のみ。翌日会う約束をしていた友人に事情を説明しつつ、さて次は運転免許証の再発行手続きか… とウェブで再発行のやり方を調べていたところで、千葉ナンバーからの着信。こんな気分の時に誰だろう?と半ば投げやりに電話に出てみると、警察署からの連絡。
「川口優作さんで間違いありませんか?」
「はい」
「財布が見つかりました」
「!」
曇り模様というより大嵐だった気持ちが、一気に快晴へ。
「本当ですか!?」
「はい。取りに来られますか?その場合身分を証明できるものが必要になりますが…」
「手元に身分を証明できるものはありませんが、実は今警察署のすぐ近くにおり、できれば直接伺いたいのですが…」
「少々お待ち下さい」
遠くから、(まあ免許証の顔と見比べれば良いのでは?)というような話声が聞こえてきた数秒後、
「大丈夫です、そのままお越し下さい」
まだ、中身が全部無事だと確証が取れたわけではないので、現物を見るまでは気を抜けない。はやる気持ちを抑えつつ、郵便局から警察署へダッシュ。到着し、受け付けで名乗ったところ「あー、川口さん」とすぐに分かってくれたようで、すぐに懐かしい赤い財布が目の前に登場。気になる中身も、全て元どおり。いったいどんな親切な人が…と思い「届けて下さった方はどんな方だったのでしょうか?」と聞いてみたところ、既に権利を放棄されているので情報をお伝えする事ができません、との事。チラッと書類から見えた名前は「~子」さんだったので、おそらく女性であるらしい事は分かった。やはりあの坂道の女性だろうか… どん底の気分から自分を救い出してくれた名も知らぬ女性に、間違いなく伝わらないとは思うけれどここで心からお礼を言いたい。
※※※
遡る事6年。実は自分の22歳の誕生日の翌日にも、同じような事がありました。舞台は柏から遠く離れたカナダはトロント。誕生日会を開いてもらっていた前日の自分は、例の如く浴びる程酒を飲んでしまい気付いたら自分の部屋、という漫画のような事に。思い返せば、当時はしょっちゅうそんな事をしていた気がする。とりあえず自分の持ち物が全部あるか確認しよう…ん?
パスポートが…ない
部屋のどこを探してもパスポートがない
今のように運転免許証を持っていなかった俺は、飲みに行く度にパスポートを持参していたのでした(カナダの飲み屋はIDチェックが厳しい)。当時カナダに住んでいた自分としては、これでは帰国できない!とまで切迫してはいなかったものの、海外で一番無くしてはいけないものの一つを無くしてしまった、と絶望的な気分に。強烈な二日酔いに加えてパスポートを無くした絶望感の中、とりあえずなんとなしにパソコンを立ち上げてメールを確認してみることに。すると、見覚えのないアドレスから連絡が。これは…
当館に貴殿のパスポートが拾われて届けられております。
至急当館にご連絡下さい。
在トロント日本国総領事館
海外に日本人が住む場合、在留届というものを出さなければならず、自分も漏れなく届け出をしていたのでメールアドレスが登録されており連絡が来た、ということ、らしい。助かった…良い人がいるもんだ、と、早速領事館に受け取りに行くことに。
領事館。空港のようなものものしいゲート(金属がピーッと鳴るあれ)を通り事情を説明したところ、何故か封筒に入った自分のパスポートが差し出される。(わざわざ入れてくれたのかな?)と思っていた俺の心を見透かしたように、「この状態で届けられましたよ」と教えてくれる職員。なんだろう?と思いながら中身を開けてみると、パスポート…と一緒に三つ折りの紙が。紙…?なんだろう、と広げてみたところ…
(原文)Dear Yusaku,
Happy 22nd Birthday! Hope you had fun celebrating – here is your passport you lost last night, I found it outside Yonge/Bloor subway station on the ground this morning on my way to work. Hope you get it back safe & sound. All the best,
(和訳)優作さんへ
22歳の誕生日おめでとう!良いお祝いでしたでしょうか – 昨晩あなたが落とされたパスポートです、今朝出勤中にヤング/ブロアの地下鉄駅前に落ちているのを見つけました。無事受け取れると良いのですが。お元気で。
おそらく、今までの、そしてこれからの誕生日プレゼントの中でも屈指のインパクトを持つプレゼントだったように思います。手紙がその方の勤めていると思われる会社の用紙に書かれていたので、手紙の下の方に記載されていたinfo@~という連絡先にお礼の連絡を入れてみたところ、本人より;
(原文)
I am so glad that you were able to get your passport back. It is a nightmare to try to replace if it is lost or stolen. You are very welcome!
(和訳)
パスポートを無事受け取れたようで良かったです。落としたり盗まれたりすると再発行が大変ですからね。どういたしまして!
とメールで連絡が来て、無事お礼を言うことができました。
今回の財布といいカナダでのパスポートといい、どこの国にもいい人ってのはいるんだな、と身をもって痛感。2人とも、移動中だったにもかかわらず、阿呆な俺が落としたパスポートや財布を拾って領事館や警察署に届けてくれています。1人は手紙まで同封してくれて。本日、無事停止したキャッシュカードの復旧手続きが終わったので、これで真の意味で土曜日の出来事に決着がつきました。今回財布を届けて下さった方は連絡先が分かりませんが、心より感謝申し上げます。
Pay it forward.