リアル脱出ゲームクリア後の10月末から今に至るまで、日本各地の色々な場所に旅に出ています。
リアル脱出ゲームのクリアは本当に困難で、攻略中はクリア後のことを考える余裕がありませんでした。映画や小説では登場人物の”その後”が描かれることは多くの場合ありませんが、現実の世界ではひとつのことに区切りがついても人生という物語は続いていきます。脱出後すぐに新しい物語を紡ぐ気力は全くなく、少なくとも年末までは気力を回復させるための充電期間に充てることにしました。
自分にとって最も効果的な充電方法は旅をすることです。失われた気力を回復させるため、まずはあまり深く考えずに山へ行くことにしました。これといった大きな目標を伴った旅ではなく、行きたいと思った場所へ行き、予定が入れば帰宅し、行きたいところと天候が合致すればまた出発する。そんな『充電の旅』の第一弾が早池峰山でした。
旅の計画:10月25日(金)
脱出ゲームクリア翌日の10月25日は風邪でダウンしていましたが、どうしても旅したいという衝動に駆られ弱った身体に鞭打って各地域の天気を確認。この日の時点ではまだ南アルプスと北アルプス、東北の天気をそれぞれ見比べていました。
登山前日:10月26日(土)
この日のうちに出発することは決めていましたが、最後まで南アルプスと東北の山で迷っていました。最終的には、『山と食欲と私』の登場人物の「悩んだら北かな」という台詞に感化され東北行きに決定。普段は行きづらい早池峰山を目標に、体力や天候的にチャンスがあれば大朝日岳と飯豊連峰にも登る予定としました。この時点での東北の予報は翌日曇りで翌々日快晴。二日連続で山に登ることを想定して、行程の短い早池峰山を翌日(雲り)、行程の長い大朝日岳を翌々日(快晴)に設定し予定を組みました。
早池峰山は果てしなく遠く、普段山へは下道で行く自分もさすがに高速で向かうことにしました。高速を使用しても6時間以上かかる、550kmの行程です。家を出たのは13時過ぎでした。まずはガソリンを補給し、その後食料を調達しに近くのスーパーへ。体調が万全ではなかったので食材に加えて風邪薬も購入です。6時間以上運転して車中泊、翌日登山。完全に荒療治です。必要な物資を調達したらまずは浦和美園のイオンに入っているモンベルへ向かいます。浦和美園のモンベルと言えば、昨年10月に武尊山に登る前に立ち寄って以来ちょうど1年ぶりに訪れました。モンベルに立ち寄ったのはまだ持っていない飯豊山の地図を入手するためです。
地図を購入しイオンを出たのが16時過ぎ。残り520kmの行程です。本宮~二本松間で事故渋滞が発生したりもしましたがおおむね順調に進み、宮城県にある菅生PAに到着したのが20時過ぎ。道中、災害派遣の横断幕をかかげた自衛隊の車両を多く見かけました。菅生PAでかき揚そばでエネルギー補給しているときも、隣で自衛隊の方々が夕食(?)を食べていました。本当にお疲れ様です。
そしてガソリンも再補給。まだ先は長いのにかなりのガソリンを消費していました。恐るべし東北。なんだかんだ1時間程度休憩し、再出発。まだ残り200km以上あります。
そしてようやく高速を降りたのが花巻IC、時刻は23時前。降りてすぐのGSでガソリン再補給。一人で長距離移動するとガソリン代も高速代もすべて自分に降りかかってくるので財布へのダメージがでかい(当たり前)。
登山口に向かう道中、山道に入ると鹿が道路を横切る。何頭も。勘弁してください。そして日をまたいだ0時過ぎ、ようやく登山口付近の駐車場に到着。何箇所も立ち寄ったとはいえ家を出てから11時間。クタクタです。
早池峰山は大迫側から登るのが一般的で『河原の坊』と『小田越』の二つのルートがありますが、河原の坊からのルートは現在使用禁止になっており小田越から登るのがもっとも一般的なルートとなります。駐車場は河原の坊にしかなく、河原の坊の登山口から小田越の登山口へは距離にして約2km、40分程度歩く必要があります。小田越も以前は路駐できたというブログも見かけたので試しに小田越まで車で行ってみましたが、現在は対策されており完全に駐車出来ないようになっていました。仕方なく河原の坊に戻り、車中泊の準備。真っ暗ですが車は自分一台しかいません。
以前は車一台の真っ暗な駐車場での車中泊は怖くて仕方がなかったので、やむを得ない場合以外は極力避けるようにしていました。が、ここ最近はあまり、というよりぜんぜん怖くなくなりました。”未知のものや未体験のものに対して恐怖を覚える”と仮定すると、『車一台の真っ暗な駐車場での車中泊』は自分にとって既知のもの、体験済みのものになったので怖くなくなったのではと思っています。お化けでも出そうだと前までは思っていましたが、繰り返し車中泊することで「そんなものは現れない」ことを身体で覚えたように思います。あとは、ほとんどのケースで朝になれば車が数台現れるから、というのもあるかもしれません。すべてはエセ科学ですがとにかく恐怖を克服したことで行動の幅が広がったことは歓迎すべきことです。
と、そんなことを考えながら就寝。行程の短い山なので翌日は7時出発に合わせての起床です。
登山当日:10月27日(日)
霧。
ものすごい霧です。どう考えても登山日和ではない。予報は曇りでしたがここまでとは。『せっかく来たから』と『この天気で登っても』という心の葛藤が続いていました。6時過ぎから何台か車が現れていましたが、おそらくみな同じ想いで車の中に留まっていたように思います。
7時を過ぎ、出発するグループも現れ始めたので自分も心を決め登山敢行と決めました。時刻は8時10分過ぎ。予定よりも1時間程度遅い出発です。
まずは2km程度の林道を小田越まで向かいます。天気も含めた雰囲気的には海抜0mから登った富士山の初日、キャンプ場に向かう道を思い出します。
かなり飛ばして歩いたところ、30分もかからず登山口に到着しました。
登山口には駐車場で隣に停まっていた小学生っぽい子供を含む家族連れもいましたが、登山するか逡巡しておりおそらく登山せずに帰ったものと思われます。結果的にこの日のコンディションはかなり過酷だったので、特に小学生の体重や足腰の強度を考慮すると中止して大正解だったと思います。山は逃げない。
さて、ここから本格的に登山開始です。時刻は8時40分。入ってすぐは樹林帯の中を進みますが、溜まった雨水が流れてきているのか登山道はプチ沢状態と化していました。
登山開始から20分もしないうちに樹林帯を抜け登山道は蛇紋岩の滑りやすい道に変貌します。蛇紋岩といえば至仏山。登山者にとっては歩きづらい岩の代名詞とも言えるとにかく滑る岩です。
実はこの日の最大の難関は滑りやすい蛇紋岩ではなく
です。残念ながら写真では風のすさまじさがまったく伝わりませんが、立っているのもやっとという風の強さで本気で撤退も考える過酷な環境でした。
風が強い上に寒いので、身体がどんどん冷えていく。もちろん上着を着ますが手袋を持ってきていないのは痛恨のミスでした。まさかここまで苛酷な環境とは。
そしてこの突風吹き荒れる寒い環境で現れたのが
普段なら何てことないんですが、問題は
- 風が強すぎてマジで吹き飛ばされそう
- ハシゴが冷たすぎて手袋なしではかなりきつい
という点。覚悟を決めてまずは1段目を登りきり、少し手を温めてから2段目も高速で突破。マジで過酷!!徐々に高度を上げていくと、すごいスピードで流れていく雲が途切れる瞬間もありました。
おそらく標高の低いあたりは紅葉していましたが、紅葉を楽しむ余裕はまったくありません。
最後の分岐に差し掛かったのが9時50分くらい、山頂はもうすぐそこです。
このあたりまで来てようやく風が少し凪いで過酷な環境から開放されたように記憶しています。そして10時にようやく山頂到着です。
標高2,000m未満で行動時間も短いからといってナメてかかってはいけないということを身体で覚えた山行となりました。短い時間とはいえ神経を張り詰めて本気で歩いていたので(変な日本語ですが)もうへとへと。避難小屋で食事です。
避難小屋では二人の男性登山者としばし歓談。一人はすぐに出発しましたがもう一人とは結構長く話しました。
特に北アルプスの話で盛り上がり、なんでもこの方「新穂高温泉から入山し、三俣山荘に泊まり鷲羽、水晶を経て雲の平へ。さらに薬師岳、黒部五郎岳を経て笠ヶ岳にも登り下山」という密度の濃い縦走をされたとのこと。自分の縦走話も交えてかなり盛り上がりました。
東北界隈では秋田駒ヶ岳で熊と遭遇し、向こうも驚き逃げていったので助かったとのだとか。この日は早池峰山下山後に岩手山に行く予定が、早池峰山の強風っぷりで岩手山はやめておくことにされたそうです。
この方より「朝日岳は山頂付近に熊が出る」という噂を聞き、翌日のプランに大きく影響することとなります。
※※※
避難小屋に45分くらい滞在し下山開始。多少は風が落ち着いていることを期待しましたが相変わらずの突風でした。
何とか突風地帯を抜け樹林帯に入りそのまま下山を続けていると、下山途中の夫婦の登山者に「山頂まで行かれましたか?」と聞かれる。「なんとか行けました」と答えるとその夫婦は風が強すぎてこの日は登頂を断念したと言う。冒頭の家族連れといい、この日はかなり多くのグループが登頂を断念したのであろうと予測します。
下山開始からちょうど1時間で登山口に到着。結果的には往復の実働時間としては2時間20分程度でしたが密度の濃い内容でした。そして脚に負担が大きかったのか、下山途中から右膝が痛い。朝日岳は熊が出るというし膝も痛いしで、翌日の登山はこの時点ですでにほぼ諦めていました。
この日のログ。下手したら半分くらいは最初の林道歩きかもしれません。見た目は楽ですがとにかく突風に悩まされた山行となりました。良い経験です(前向き)。
※※※
荷解きし、少し調べてこの日の温泉は「大沢温泉」に向かうことにしました。出発すると、空がだんだん晴れてくる。これだから山の天気は読めない!!
このあとは数日かけて千葉に戻ることになりますが、道中ちょっとしたハプニングが発生します。事の顛末は次のブログでまとめたいと思います。
『スタバとイオンと温泉と』編に続く→
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