57座目の百名山: 谷川岳

私は今、日本の美しい山々を知っている
必死に登ったあの日があったから───

この台詞は愛読している漫画『山と食欲と私』がついに迎えた100話『成長のご来光スープ』からの引用ですが、漫画の展開と相まって非常に印象深い台詞でした。この話を読んだ10月26日(金)からずっと、山に行きたいと心の片隅で思っていました。

10月28日(日)は朝から謎解きのイベントに参加する予定で、昨年の経験を踏まえると翌日山に行けるとは到底思えず『次の山は11月に入ってからか』と思っていたところ、10月27日(土)の23時前に謎解き仲間より「当日は19時までしか遊べない」という趣旨のメールが入る。これは月曜日、山に行こうと思えば行けるのでは…と思いながらこの日は就寝しました。

そして迎えた10月28日(日)。謎解きに参加すべく7時過ぎに起床してすぐに携帯を見ると「月曜日に山に行きたかったけど風が強そうで行くのを断念した」みたいな内容のメールが新幹線I氏から届いている。「強風なら強行できる!実は今夜発で山に行けそうになった」と返信してみると「実はもう荷造り済んでいます」という頼もしい返信。そんなI氏から谷川岳を所望され、当日夜発の谷川岳計画が突発的に決まったのでした。

謎を解き明かし(前回のブログ参照)、解散した28日の18時からがこの日の第二部スタートです。まずは第二部の参加メンバーを紹介しておきたい。

何回目の登場なのかI氏。谷川岳に向かうこの時点で読んでいた本は『神々の山嶺(下)』。現在読んでいる本は沢木耕太郎著『凍』。この流れで読んでほしい山岳小説は『孤高の人』。
筆者Y。今読みたいなと思っている山岳小説は森村誠一の『悪の山』など。今年読んだ中ではジャンルを絞らなければ特に『星を継ぐもの』が寝不足にさせてくれました。

10月28日(日)夕方、登山前日

謎解き仲間との解散後、卒論を書くとか言いながらおそらく書いていないであろうI氏に連絡を取り、帰宅して(録画した仮面ライダージオウを見てから)支度し19時45分に出発。下道でI氏の最寄り駅へ車で向かい20時半に合流。突発的に谷川岳行きが決まったのが朝7時で、そこからひたすら謎を解いていたので登山計画を全く立てていません。前々週に武尊山に登っているので谷川岳の地図は持っており、合流したらまずは地図を広げて作戦会議です。

谷川岳のルートは山頂(トマの耳)とロープウェイ乗り場二箇所(土合、天神平)の計三箇所を頂点、ロープウェイ沿いの田尻尾根、天神平駅からトマの耳までの天神尾根、土合駅から直登でトマの耳に突き上げる西黒尾根の三つの尾根を各辺とする三角形の周遊ルートがメインルートです。山頂へは田尻尾根⇒天神尾根を経由するか西黒尾根を直登するかの二択で、西黒尾根について地図を見ると『日本有数の急坂』などと書かれており、ネットで調べると『初心者には不向き』などと書かれているので迷わず西黒尾根を登ることに決まりました。←

今回のルートは土合駅を起点として西黒尾根を登り、双耳峰である谷川岳の両耳を経て一ノ倉岳まで行き、トマの耳まで戻ってきたらそのまま天神尾根、田尻尾根を経由して下山するという周遊ルートです。

軽く買出しを済ませたら関越自動車道で群馬県へ。23時半くらいに土合駅近くの立体駐車場に到着し、すぐに就寝。数週前に武尊山に登った際に付近の温泉で既視感を感じましたが、この駐車場もかなりの既視感です。以前の雪訓のときも使用したのはこの駐車場でした。ともあれながーい一日が終わりましたが、翌日は5時半起きです。

10月29日(月)、登山当日。

朝5時半、2人とも無事起床。寒い!!4時くらいから周りが騒がしく、周りを見てみると前夜到着したときよりも若干車が増えていたようでした。軽く朝食を済ませ、6時10分に駐車場を出発。空は快晴、絶好の登山日和です。途中通過した『登山指導センター』は以前雪訓で訪れた際に立ち寄った記憶がありましたが今回はスルーし、少し歩くと一ノ倉沢と山頂への分岐が現れます。

分岐

もちろん山頂方面へと舵を切ります。ここから森林限界に達するまでは樹林帯を歩きます。登山開始直後は寒かったもののすぐに身体が温まったので上着を脱いで身軽になり、どんどん先に進んでいきます。この日はそこまでスピードを出さずに足に負担をかけないよう心がけて歩きました。

気持ちの良い登山道
こんな気持ちの良い道が続きます。

森林限界を超えると、いきなり視界が開けて登山道の雰囲気が一変します。瑞牆山以上の、しかも足も手もかける所があまりないスラブチックな岩場が続きます。雰囲気としては四国の三嶺に少し似ているような気がしました。

攀じ登るI氏
登ってくるI氏。こんな道?が続きます。

山ポーズ?
視界が開け、目の前には目指す谷川岳山頂が。

岩場
岩場はまだまだ続きます。

遠方には赤城山

上の写真で下っていく道は天神尾根、見えている建物はロープウェイ乗り場です。写真中央遠方に見えているのは赤城山。登山中にあれは赤城山ではないか、と予測を立てていたのが当たっていました。今年は夏から秋にかけて北関東方面にひたすら足を運んでいたのでだんだん山の位置関係が分かってきました。写真一番左に少し高く見えている山は皇海山らしいです。

岩場になったり稜線になったりを繰り返し、天神尾根と谷川岳山頂への分岐点に到着します。ここは今まで歩いた中でもかなり気に入った登山道で、西黒尾根から登る選択は大正解でした。

味わい深い道標
雰囲気のある分岐の道標です。

山頂直下
山頂はすぐそこに。

パノラマ!

分岐のあるところまで行くと、左側に肩ノ小屋、さらにその先には気持ちの良い稜線が見えました。地図を見てみると、中央手前で一番高く見えるのがオジカ沢ノ頭、その奥に万三郎山、オジカ沢ノ頭から左に見えるのは川棚ノ頭のようです。川棚ノ頭へは道が続いているように見えますが地図を見る限り登山道は整備されていない。写真右奥のほうに高く見えているのは数日後登ることとなる苗場山ですが、このときはまさかこんなすぐにこの界隈に戻ってくるとは予想だにしていませんでした。

万三郎山方面に歩き続けると仙ノ倉岳(二百名山)、平標(たいらっぴょう)山、そこから下山すると苗場スキー場のエリアに出ます。そこには苗場山への登山口があり、地図を見るとこのルートで苗場山に上がると登山道沿いに秘湯『赤湯温泉』もあるではないですか。もし時間にものすごく余裕があり、電車で来ることがあれば

土合駅

谷川岳

平標山

赤湯

苗場山

秋山郷

という群馬県から長野県にかけての壮大なプランも立てられます。谷川岳も数日後に登る苗場山も最高だったので、この辺にはまた戻って来たいです。

さて、話が本題から大きく逸れましたが分岐から山頂はすぐそこです。

山頂其の一
山頂(トマの耳)。ロープウエイ乗り場は遥か下。

谷川岳は双耳峰で、トマの耳よりも隣のオキの耳のほうが標高が高いのでそのままオキの耳に向かいます。

稜線!
オキの耳はすぐそこ。稜線歩きは気持ち良いのですが西側に嫌な雲が発達していました。

そして9時前にオキの耳に到着。57座目の百名山です。

何をしている
・・・。

不気味な雲が・・・
雲がどんどん増えています。谷川岳は気象の変化が激しいとのこと。

東側の景色

東側は快晴でした。下山後調べたところ、上の写真中央奥の稜線の高い山が皇海山、写真中央手前の高い山が武尊山、武尊山の少し左に見えている高い山が日光白根山らしいです。武尊山は当たりましたが他の山は遠くから見ると形状が似ているので当てづらい。

THE紅葉

上の写真、中央少し右の奥に見えている高い山は燧ケ岳、その手前が至仏山らしいです。写真一番左に越後駒ヶ岳も見えていたようですが雲に隠れていました。手前の山塊の紅葉が超綺麗だったのですが、持っているコンデジやiPhoneではあの赤さが表現できない!一眼レフが欲しい今日この頃です。

※2020.01.16追加

冒頭に書いたプランどおり、このまま帰るのではなく一ノ倉岳へと歩みを進めます。先に進むと、下の写真のような鳥居が現れました。

富士?

谷川岳なのに何故富士?と思って調べてみたところ、谷川岳はかつて『谷川富士』と呼ばれており、麓(水上町)に谷川富士浅間神社中宮、オキの耳から一ノ倉岳への道沿いに奥宮がある、とのこと。この地域では古くから山岳信仰が根付いていたようです。

さて、鳥居をくぐると一ノ倉岳への道が続いていますが、ふと振り返ってみるとそこにも壮大な景色が。オジカ沢ノ頭や万三郎山が映えています。紅葉と同じく、実際はもっと色鮮やかな緑色でした。やはり一眼レフが欲しい。

色鮮やかな緑

一ノ倉岳のアプローチ手前には有名?な『ノゾキ』という場所があります。何を覗くって一ノ倉沢を覗くわけですが、ここの高度感がハンパない!

有名な一ノ倉沢
転げ落ちたらと思うと・・・。

偵察中?
若干足がすくんでいるぞ若者よ。

オキの耳からここまではアップダウンがそこまで多くない道だったのですが、ここから一ノ倉岳への登りがものすごいキツい。この日のなかで一番疲れた場所は一ノ倉岳の登りだったような気がします。一ノ倉岳に到着したのが10時前だったので、昼休憩とすることにしました。昼食を摂っていると、谷川岳への登りやオキの耳で何度か会話した単独登山女子が「(この先の)茂倉岳まで行ってきます」と疲れた様子も見せず颯爽と歩き去っていく。どうやったら単独登山女子と仲良くなれるのだろう

さて、昼食を摂ったら下山です。コースタイムで4時間以上あるながーい下山です…。まずはオキの耳へ向かいますがこの景色はなかなか見ごたえがありました。

一ノ倉岳から見た谷川岳
双耳峰というのが分かりやすい。猫みたいです。

少し歩いていると、なにやらあたりがガスに包まれ始め、振り向くとついさっきまで居た一ノ倉岳がいつのまにかガスの中…。

迫り来るガス

戻ってきたオキの耳(11時到着)も2時間前に登頂したときとはまったく異なる様相でした。

眺望なし!

何も見えない!!

2時間足らずでここまで天候が変わるとは、谷川岳の恐ろしさを垣間見たような気がします。景色もないのでどんどん先に進みましたが、せめて天神尾根で少しは景色を見させてくれ!という我々の想いが通じた(誰に)のか、天神尾根では何度かガスが晴れて景色をかろうじて見ることが出来ました。

オータム・チラリズム

この現象を紅葉チラリズム、またはオータム・チラリズムと名付けよう!なんて阿呆な会話をするくらい2人とも体力的には余裕で、ロープウェイ駅方面に向かってどんどん降りていきます。ロープウェイ駅の手前に土合駅に向かう田尻尾根への分岐があり土合駅に向かいましたが、この田尻尾根が全く面白くない。樹林帯の中を延々と下っていきます。登りに西黒尾根を使って本当に正解でした。田尻尾根の良かった点をしいて挙げれば紅葉を見られたことくらいでしょうか…。

紅葉は綺麗でした。

次回同じルートを来ることがあったらおそらく下山にはロープウェイを使うと思われます。もう飽きた!と念仏のように唱えながらようやく下山。駐車場に戻ってきたのが13時半でした。朝6時過ぎに出たので行動時間7時間半のロングルートです。お疲れ様でした。

ログ

今回のログ。天神尾根でいつの間にかiPhoneのバッテリーが落ちていたのでログが取れておらず無理やりつなげたので一部直線になっています。警告もなくいきなり電源が落ちていたあたり、そろそろ5Sも寿命かもしれません。

下山したらまずは温泉です。つい最近行ったばかりの鈴森の湯へ再訪。

既視感!
※武尊山下山後に行ったときの写真

そして温泉から出たら帰宅…ではなく、この日は三鷹にあるジャムセッションというボルダリングジムであの山野井泰史さんの講演会が開かれる予定で、我々はその会に参加する予定だったのでした。山野井泰史さんといえば『垂直の記憶』や『凍』を読んでその凄まじさを垣間見ており、いつか講演会があれば参加したいなと思っていました。謎解きからの群馬県移動、車中泊、谷川岳登山、温泉、からの講演会。密度の濃い行動プランとなりましたがその分非常に充実していました。

三鷹に着いたのが18時ちょうどくらい。駐車場を探すのに一苦労し、ようやく駐車場を見つけてジムに入ったのが18時5分か10分くらいだったと記憶しています。会社の同僚2人も来ているという情報がありましたが到着が遅くなったので合流は諦めていたところ、ドアを開けると視界に2人の姿が。出る直前だったようですがぎりぎり間に合ったようです。谷川岳計画は全く告げていなかったので驚いていたかもしれません。入店直後にクライミング部・部長も登場。前日の謎解きから各イベントごとに登場人物が多いです。

講演会が始まるのが20時で、19時半まではジム内でボルダリングできるということでしたが

人口密度がやばい。

19時の時点で50名弱いたと思います(普段は多くても20名程度とのこと)。これなら予約制にするか、講演会だけ参加する人は19時半以降の入店にするとか、なにかしら方策を講じれたような気がするのですが…。店の人もあとから「ここまで集まるとは思っていなかった」などと言っていましたが、次回以降の糧にしてほしいです。

時間があまりないのでさほどアップもせず(谷川岳登山がアップ?)4級数本と3級の課題を落としたあたりでタイムアップ。そもそも登る気にもならないくらいの人の多さに辟易としていましたが、講演会の時間が近づくとさらなる人!人!!人!!!最終的に100人はいたと思います。つい先日小川山でI氏を紹介したOさんも講演会だけに参加するべく登場。人の多さに驚いていました。

と、講演会が始まるまでは店への文句しかありませんでしたが、講演会の内容はもう最高のひと言で、店への文句が全て帳消しになる、どころかおつりが来るくらいの素晴らしい内容でした。主にクラッククライミングについて語るということでしたが、世界の様々な岩壁や山の話、10代でクライミングを始めた頃の話など、かなり貴重な話を聞けたと思います。プロジェクターに映した世界中の岩場の写真について解説を添えてクライミングの内容を聞けたのはかなり熱かった。山野井さんがジム内でボルダリングしている姿やプロジェクターに映されていた岩場の写真もありますが、肖像権?的にどうかと思い写真は割愛します。講演会のおかげで夏から登山に向いていた心が一気にクライミング方向に転換されたように思います。

他の面々は全員電車での帰宅だったので、ここで解散。前日からのながーい週末がようやく終わりを迎えたのでした。が、この週はまだ他にも色々なことがあり、引き続きブログに書いていきたいと思う。

続く→

おまけ:お土産は谷川岳です。

お土産は谷川岳。

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